前回からの続きです。
アップライト筐体の一部は画面を直接見るのではなくて、鏡に映った画像を見ているというお話を書きましたが、アップライト筐体以外でもこの仕組みを使ったゲーム機はいくつもあります。
そのなかでもひときわ変わった使い方をしていたのが、これまたナムコ製の「スターブレード」です。
ゲーム内容的には今見るとオーソドックスなレールライド型(進路は操縦できない)の一人称シューティングです。
宇宙空間が舞台で、その後も同社の世界観として展開するUGSF(銀河連邦宇宙軍)の1作品です。UGSFという略称自体はこれが最初だったのかな?ちょっとあいまいですが。
ギャラクシアンなどと世界観が共通です。
プレイ内容や設定はさておき、このゲーム機最大の特徴はその視覚効果でした。
始めてプレイしたときに驚いたのは、その吸い込まれるような宇宙空間の広がりと奥行き。
まるで今の3D画面をみているかのような感覚に感動を覚えた記憶があります。その時は仕事ではなくてプライベートでゲーセンに行ったときだったのですが、財布が電車賃残して空になるまで遊んだ記憶があります。
この不思議な奥行き感を演出していたのが、先の記事で触れた「ミラーに映ったモニター画面」なのです。
ただし、この筐体の場合はアップライトではなく、宇宙船を模したコックピット型の筐体です。プレイヤーは座席に座ってプレイします。目の前にある鏡はアップライトのように下方斜め45度に向けてあるのではなく、ほぼプレイヤーに正対する形で垂直に近い角度で置かれています。ではモニターはどこか?画面に正対しますが、モニターはアップライトのように筐体下部から上を向いて置かれてはいません。
このスターブレード筐体、モニターはプレイヤーの頭の上で鏡面に向けて斜めに設置されているのです。
う~ん、危ない。
もちろん、そこそこ丈夫なフレームで固定されているのですが、そんな重いものをプレイヤーの頭の上に置いておく発想が今だとちょっと信じられない。だいたい、少なくとも当時のゲーム機の「丈夫」の概念は他業界、例えば自動車産業や家電業界のそれと比べるとかなり基準はいい加減でした。
ともあれ、そんな位置にモニターを置いて鏡に移すだけでそんなに奥行き感が得られるのか?
実はこの鏡、巨大な凹面鏡でした。
あの真ん中が凹んだ鏡です。BSアンテナとかの形状ですね。
なぜ凹面鏡で画面を写すと奥行き感が得られるのか、イメージとしては何となくわかりますが、詳しい原理は説明できません、理系じゃないので。でも、現実にこのゲームの画面は現実の距離よりもずっとずっとどこまでも遠くにあるように感じられたのです。
舞台が漆黒の宇宙空間だったことも良かったのかもしれません。より深く遠い感じが画面から伝わります。同じシステムを使った次作の「ソルバルウ」は舞台が明るい平原だったせいか、スターブレードほどの奥行き感を感じられませんでした。
そういえばソルバルウのモニターはプレイヤーの真上ではなくて、ミラーの上方にシフトしていました。やっぱりまずいと思ったんでしょうか。
さて、やはり細かいゲームそのものウンチクはその手のレトロゲーム専門サイトにおまかせして、別のお話。
このゲームが活躍していた時期、私はまだピチピチの20代。ド新人で直営店舗の下っ端稼業をしておりました。
そんな折、どうやらナムコのサービス部門の特命チームが全国を回る、という通達が。
何故か?
このスターブレード、燃えるのです。いや、燃やすのです。チャッカーマンです。
上下左右の壁に囲まれてやや奥まっているとはいえ、ほぼむき出しの状態で巨大な凹面鏡が置かれているのです。巨大です。持ったことありますが両手を広げて抱えるほどデカイです。
そんな巨大な凹面鏡に強い光が当たるとどうなるでしょう。燃えるのです。その反射した光が集まる場所が燃えるのです。
子供の頃、虫眼鏡で黒い紙に火をつけた、あれと同じ現象が起こります。
実際にボヤがあったと聞いております。聞き及んでおります。当時は屋外ロケーションもまだまだ多かったのです。
作った会社がキャラバン組んで部品交換に駆け巡るのですから、ほんとにどっかで燃えたのでしょう。
果たして私がいた店舗にもキャラバン隊がやってきました。
彼らは挨拶もそこそこにスターブレードの凹面鏡の交換作業を始めます。反射率が低くなったものに交換するらしく、実際目で見ても以前のものより黒っぽい。出火は防げるのでしょうが、おかげで画面がとても暗くなりました。奥行き感もややダウン。
加えて、移動中に日光にさらされないように、移動用のシェードが足されました。たしか蛇腹状のシェードだったような、記憶曖昧です。機械を運び出すときはこのシェードを画面の前に下ろして日光が直接当たらないようにします。
作業を終えると彼らは慌ただしく次の店舗に急ぎました。あっという間です。お疲れさまです。
こうしてスターブレードの火災騒動は幕を下ろしていくわけですが、時同じくしてスターブレードの人気も下降線を辿っていきました。
別に画面が暗くなったせいでもないと思います。
通信プレイなどあまりない時代、ソロプレイのコックピット型ゲームの寿命なんて当時は長くて1年です。いや、1年など持ったほうだと思います。この筐体は大きくて見栄えもよいので、この後もしばらくの間、店舗のスキマ埋めで活躍しました。スターブレード第2の人生ですね。
個人的(プレイヤーとして)には大好きだったゲームなのでとても思い出深いです。後々PS版とかVHSビデオとかも買ったくらいだもの。
ただ、この凹面鏡騒動が数年後、思いもよらぬ形で自分の身に降り掛かってくるとはこの時は予想だにしなかったのです。
思わせぶりなクリフハンガーで続く。