補償の血液
説明室を後にしてその足で同じ階の採血室へ。血を取ります。いつもよりいっぱい取ります、染之助染太郎。
採血は手術の前日にも行いました。そのときもいっぱい抜かれました。
この血液検査の目的の一部を手術前日に説明して頂きました。
私の手術はMICSという、切開部分も小さくて出血量も少ない方法ですが、やはり手術中不測の事態で輸血が必要となる場合があります。輸血用の血液は十分にチェックされますが、とても低い確率でB型肝炎やHIVなどに感染するリスクがあるらしいのです。もしも感染した場合、輸血が原因であると証明できる場合には国が補償してくれるのです。そのため、事前に私の血液がそれらのウイルスに侵されていないことをチェックするため、もし感染した場合は輸血が原因であることを証明するための検査も含まれているとのことでした。
感染しないための検査ではなく、感染してしまった場合の検査ですね。結果的に思いもかけず、今の自分が肝炎やHIVに感染していないことが判明しました。若い頃のアレとかコレとか心配だったものが払拭できました。
採血痕をガーゼの上から指で抑えながら心電図の検査に向かいます。
今度の心電図は前回の踏み台昇降付きではなくて、終始横になったまま測定する普通のものでした。あっという間に終わります。
続いて胸部X線。
前回撮ったのになと思いながら、それでもそれは1ヶ月ほど前か。でも入院はさらに2ヶ月後。そんなに撮ってどうするの?
結局入院した日にもまた撮るんですけど。言われたとおりに動きます。
ここで検査リレーは終了です。
入院予約センター
この後は入院予約です。入院のための事務的な手続きをします。1階の然るべき場所へ。
何ていうのでしょうかね。入院受付とか患者支援センターとかが諸々一緒になってるところ。これも最近の大病院では必ずありますよね。スーパーのサービスカウンターみたいなところです。そこに行きました。
入院の手続きをしたい旨を告げて部屋の前で待ちます。やはりここでも結構待ちます。
30分ほど待っていると、事務員の方がやってきました。さて、と腰を上げようとすると
「すみません、もう少しかかるのでお待ちいただけますか?」
わざわざ途中経過を伝えに来てくれただけでした。つまりまだまだかかるということ。
こういった報告が疑問形なのは何故なのでしょうね。「お待ちしません!」って答えたらすぐに通してくれるんでしょうか?「お待ちいただきますっ!(断定)」でいいと思うのです。
その後10分もしないうちに順番が来ました。さっきの伝令いらなかったですね。まあでもあれか。短気な人も多いのかな。
縮む男
お役所の受付カウンターのような作りです。このご時世、当然アクリル板でブースのように一人づつ仕切られています。素敵な笑顔(マスクしてますが)の事務員さんに促されてその一つに陣取ります。
ここでは文字通りの入院予約です。入院日や手術予定日はもう心臓外科から伝わっているようです。確認して所定の書類に記入するだけ。ここでもやはり複数の連絡先が必要です。
ただしここでの連絡先は先程のものとはまた毛色の違うもの。これ、保証人なのです。つまり、支払いが滞ったり問題を起こした時に責任をかぶってくれる人。借金の保証人と似た性質のものです。実際に法的な効力についてはどの程度のものなのかは専門家ではないので知り得ないのですが、私も父の時にこの手の書類に散々署名捺印してきました。あ、今は捺印いらないのですね。ありがとう河野大臣。
持つ意味が違うとはいえ、書かれる名前は先程の緊急連絡先と変わらない人がほとんどでしょう。私もそうでした。2名必要なので、あとで兄弟に連絡して名前使わせてもらいました。
ここでなぜか身長体重の測定が。振り返ると壁際に体重計と身長計。言われるままに測定します。体重は毎日計っているので知っています。今朝67kgちょいだったので服着てる分68kgくらいかな。ビンゴでした。
身長は前に計った時は167.5cm。そんなもんでしょう。
「166.5、ですね」
ちぢみました。ちぢんでしまいました。まだ50そこそこですがちぢみ始めました。そういえば前回の測定は会社員時代の健康診断、10年以上前です。1cmちぢみました。悲しいです。「ちぢむ」が平仮名なのはその方が可愛く見えるような気がするからです。せめてもの抵抗です。
なぜ身体測定を?と思いましたが、入院前の一応の確認でしょうか?
このあと薬剤師との薬の確認もあるのでそのあたりのこともあるのでしょうかね。理由を聞くのを忘れたので本当のところは分かりません。
ほどなく薬剤師さんが来られて現在服用している薬の確認です。
この時点では私は血圧を下げるための薬「オルメサルタン」と痛風予防のための尿酸降下薬「フェブリク」の2種類です。入院中はすべての薬を病棟で用意するので薬は朝の分を飲んだら持ってこなくて良いとのことでした。結果的に、入院日の朝を最後に今(10/2)に至るまでこの薬は全く飲んでいません。術後は手術をした病院で処方される薬に完全に切り替わりました。
薬の話が終わると、再び先程の事務員さんです。
マネーマネーマネー
お金の話です。
心臓の手術ともなると、とんでもない額のお金が必要です。3桁です。あ、いや100円とかではないです。100万単位です。いやもっとです。弁膜症の場合、その方法などで幅があるでしょうが300~500万くらいでしょうか。もちろんそれは総額なので、ちゃんと健康保険に入っている場合はそれぞれの負担額を支払うことになります。それでもやはり300万の3割なら100万近いわけで、なかなか庶民には厳しい額です。しかも、自動車や不動産と違って何も残りません。もちろん、健康という掛け替えのないものと引き換えなのですが、手元に財産は残りません。お金がなくなるだけです。私の場合も、まあ、うん、えー、払えないことはないですが、きついことはきつい。
そのためにそれを救済する制度があります。
高額療養費制度というものです。
【高額療養費制度を利用される皆様へ】(平成30年8月診療分から)~厚生労働省(PDF)
同じ月の間に医療費が所定の上限額を超えた場合、超えた分を支給してもらえる制度です。
つまり、一定の医療費を超える分は加入している保険組合が医療費を払ってくれるのです。上限額は前年度の所得によって決まります。
次の図は69歳以下の高額療養費制度の適用区分です。
現行(2021年10月)の制度だと年収が370万円以下の人でもひと月の医療費を6万円弱で抑えられるんです。
ああ、日本に生まれてよかった。他の国のことは知らないけれど。
これを申請すれば、上限額を超えて支払った分はあとで戻ってきます。また、事前に手続きをすることで、そもそも支払いの段階で上限額までの金額以外は払わずに済ますことも出来るのです。
それが 限度額適用認定証 です。
このような説明書きをその場で頂きました。
各自治体が発行するものなのでそれによって書式に若干の違いはあろうかと思います。下の例は私に実際に交付されたもので、国民健康保険の限度額適用認定証です。
このペラ紙1枚を病院に予め出しておくだけで、その限度額に見合った金額を算出して請求書を出してくれます。とても便利。そしてありがたい。
若い頃は病院にはほとんど行かないのに、ものすごい保険料を持っていかれるという不満を少なからず私も持っていたのですが、こんな形で日本の保険医療に救われる形になりました。
実際に救ってくれるのは昔の私ではなくて今現在保険料をいっぱい払ってくださってる人々なのですが。それでも、当時の自分が支払った保険料も誰かを救っていたのかな、と思えばいいのか。
そんな限度額適用認定証ですが、ひとつ大きな落とし穴というほどでもないのですが、このとき問題がありました。
この高額療養費制度は前年度の所得を元にして計算されるのですが、年次更新の時期が通常の年度末の3月31日ではなく7月31日なのです。8月1日から新年度に切り替わるのです。
だからなんだという話なのですが、私の入院日は8月3日。2021年は8月1日が日曜日です。つまり、この申請を行うのは8月2日たった1日しか余裕がないのです。病院事務の方もここを心配してくださいました。はたして間に合うのかと。そんな券売機みたいにボタンを押せば出てくるようなものでもなかろうに。
でも、最悪全額支払ったとしてもあとで戻ってくるから大丈夫かな、なんて思ったのですが、事務の方にピシャっと言われました。
「心臓手術の金額、すごいですよ」
確かに事前に得た情報では上で書いたようにすごかった。
決して富裕層ではない私が今までに一度で使ったお金なんて自動車、それもコンパクトカーを一括払いしたくらい。今回のは保険適用じゃなければそれを遥かに超えていく。
そんな金額ATMで一度に下ろせるのかな、一度じゃ無理だな、制限額に引っかかるな。そもそも振り込みでも金額の制限ってなかったっけ?
いろんな事を考えましたが、とりあえず一度7月末に役所へ行って問い合わせてみる、という結論に落ち着きました。まあそれくらいの融通は利いてほしいですよね。実際利きましたし。
7月末頃に市役所へ行って事情を説明したところ、「一旦お預かりします。準備しておきますので8月2日に取りに来て下さい」と言って頂きました。問題なく入院前に書類を揃えることが出来ました。もうなんか、みんなの親切に包まれております。親切餃子であります。
保険医療に思う
正直に言えば、最初に心臓を手術することになりそうだぞ、となったとき、真っ先に頭に浮かんだのはやはりお金の心配でした。
治療をする上での収入への影響ももちろんですし、何よりかかる費用の不安は当然あります。そんな余裕のある生活をしているわけではないですからね。日本では支払わなければならない医療費の上限額が決まっているというのは予め知ってはいましたが、その具体的な金額は今回調べて初めて知ったことです。本当に助かりました。
日本の政治や制度に関しては思うところがある人も大勢いるのでしょう。でも、現行の制度で救われている人がやはりたくさんいるのも事実です。その事は介護に携わっていた時期にも大いに感じていたことではあります。
何が問題かといえば、それが「すべての」必要な人に「滞りなく」行き渡ってはいないということなのでしょう。救われる人もいるが足りていない人もいる。だから全てが間違っているわけではないと思うのです。
ここで政治を語ってもしょうがないですね。でも選挙は行きましょうね。そういう思いは選挙で伝えましょう。
こういった大金を負担してもらうというと、どうしてもありがたさと同時に後ろめたさのようなものも感じてしまいます。小市民ですね。
でも、もうそこは割り切って、自分が何かを出来る時に、出来ることをして次の人の役に立てばよいなと考えることにします。
甘いですか?
ペイフォワードです。