第3話 造影CTそして再びの循環器内科

心臓の中のペンギン

初めてのダイナミックCT

前回の循環器内科を受診してからおよそ1週間後に心臓のCT検査です。この検査の結果を持ってその2日後に再び循環器内科の診察があります。

CT検査は過去にも経験がありますが、この日の検査はダイナミックCT、造影CTというもので、造影剤を血管に流し込んでより詳細な検査結果を得られるものです。そういえばCTって何の略だろう。考えたこともなかったけど、調べたら「Computed tomography」だそうで、コンピュータを使った断層撮影という意味だそうです。へえぇ~って感じですね。

造影剤というと健康診断のときに胃のX線検査でバリウムを飲んだ経験はありますが、血管に入れるのは初めてです。

検査は9時の予約、開院時間も9時だったので8時45分に到着したのですが、受付の前にはすでに10数人の行列が出来ていました。この9時という予約時間も「9時ちょうど」ではなくて「9時台」みたいなざっくり予約のようです。30分刻みくらいの感じなのかな?

CT室前のロビーのベンチに腰を下ろして待っていると、CT室ではなく通路奥のカーテンで仕切られた小部屋に次々と患者さんが呼ばれて順番に入っていきます。

ほどなく出てこられる方々はみなさん上腕部に大きな注射器を刺されたまま、その注射器をガッチリとベルトで固定されております。注射器刺したまま歩いておられます。

なんだこれ。痛そうだな。

自分もこれするのかな?なんて思っていたら全然違いました。あれ、何だったのでしょうね?よくわかりません。私のやるのとは全然違ったようです。

30分ほど待ったでしょうか、件のカーテンの小部屋とはぜんぜん違うところから名前を呼ばれました。ベンチに座っていた私の背後の重そうな扉が突然開いて「大西さん」。意表をつかれました。

部屋に入ると、なるほどイメージ通りのCT検査のあのドーナツ状の巨大な装置が見えます。

促されるままに装置のベッドに横になります。

これから行われる造影検査というのは、右腕の静脈から造影剤を入れてそれが心臓に戻る時間を利用して撮影するという、素人目にはアクロバティックなイメージの撮影方法のようです。というか「ダイナミックCT」の「ダイナミック」って「動的」っていう意味なんですね。なるほど、ダイナミック。

造影剤が心臓を通過する瞬間を狙ってパシャリとするんですね。なかなかテクニカルです。

造影剤は右腕の点滴から。撮影開始のタイミングで注入です。点滴ったって、お馴染みのぽたりぽたりではありません。先に述べたように心臓を通過する瞬間しかシャッターチャンスがないので、そんなちびちびやってられないのでしょう。一気に入れます。ヨーイドンで一気に。

その前に舌下に血管を広げるためのニトログリセリンを噴射してから撮影開始。

ニトログリセリン?!爆発しないの?大丈夫なの?

大丈夫だから口に入れるんでしょうね。爆発物を患者の口に放り込む病院なんかないでしょう。

ごく微量なら大丈夫なようです。

「造影剤を入れると一時的に体が熱く感じますけど、すぐに治まりますから。気持ち悪くなったら言ってください」

機械独特の動作音が始まるとまもなく、造影剤が注入されます。

ああ、なんだこれは、不思議な感じ。頭の先から首、胸、腹、脚へと唐辛子が体の中を駆け抜けていく感じ。たしかにその部分が「カァーッ」と熱く感じます。熱い熱い、なんだこれ。そして足先へとスゥーッと抜けていく。体の中を何かが通過していくサマをこんなに実感したのは初めてかも。

(火傷しない程度の)熱いお茶をぐいっと飲んだとき、それが食道を伝って胃に入るのをはっきりと感じることはあると思いますが、あれのもっと凄いやつ。

気持ち悪いというか、むしろ何か気持ちいいかも。気持ちいいというのも変かな。面白い感覚。嫌いじゃない。

ともあれCTはこれで終わり。通常より太い針なのでしばらくしっかりと点滴跡を押さえるように言われて部屋を出ます。

この日は終了。2日後に改めて診察です。

再び循環器内科へ

この日の循環器内科の診察は、実はあまり語ることはありません。

何故ならば、私の症状自体はすでに前回の心電図と心エコー、さらにその前のX線検査でほとんど解っていたからです。

じゃあ造影CTは何だったのかといえば、これはどうやら冠動脈を含め血管の状態を確認するためだったようです。診察室の画面には、昔CT検査の結果としてよく見られた輪切りの画像ではなくて、3D処理された私の心臓が立体的に映し出されています。

「動脈硬化が少し見られるけども心配するほどではなさそうなので、この後は心臓血管外科で診てもらいましょう」

つまり、手術に適応できる心臓かどうかのチェックだったようで。もう手術前提の話で進んでおります。

実はこの段階にいたるまで、私は手術をするかどうかなんていう話は一度もしていないのです。いえ、手術が必要そうだとは聞いています。でもその選択をした覚えはない。問いかけられた覚えもない。ただ、ここまで神経内科の受診も含めて感じた印象としては、

「この状態で手術しない人なんているの?」

という病院側の空気。

その空気はこのあと外科にいっても続くのですが、私の心臓は相当悪かったようです。

内科の診察はここまでです。あまり話もしなかった記憶。

実際、治療自体は外科で行うわけですがこれで良かったのかな?

すでに全てを終えた今となっては結果オーライなわけですが、今から治療に向かう人には私を見習わないで欲しい。

心臓を切ったり縫ったり、場合によっては器具を入れて法的には身体障害者となる可能性もあるわけです。

この時点でわからないこと、不安なことは全部洗い出しておいたほうがよいでしょう。私はしなかったけど。なんというか、飲み込みが良すぎるのかもしれません。

いよいよ本丸へ

さて、次回の心臓血管外科の診察予約をするわけですが、やはり1週間後。さらにそのとき事務の方から、担当の先生が手術で多忙なので時間通りに診察ができるかどうかわからない旨を告げられます。そう言われたところでどうすることもできません。まさか手術より私の診察を優先するわけにもいきません。承諾して帰宅したところ、帰宅中に病院から着信があったことに気が付きました。

折返し電話したところ、先程予約した来週の診察もできそうにないとのことで、診察日はさらに1週間先となりました。

心臓血管外科、忙しそうです。心臓悪い人多いんだな、とその時は漠然と思っていたのですが、その後入院してその事実を思い知ることになります。患者、ひっきりなしでした。ほんとに。

ともあれ次の診察まで2週間。

正直に言えばこの時、少し「ホッと」してしまいました。

何がって、診察日が先に延びたことにです。

自分の中で消化していたつもりではいたのですが、やはりまだまだ不安はあったのでしょう。嫌なことが先延ばしになったことで、あまり前向きではない安心感を感じてしまいました。

結局やることは同じなので済ませられることはさっさと済ませたほうがよいのでしょう。でもこの診察延期のおかげで少し気持ちが落ち着いてきた部分もあります。この時点でもまだ手術確定ではなかったのですが、ただ漠然と、手術するんだろうなと思いながらこの間の2週間を割と淡々と過ごしていたのでした。