管理人が平成時代の若き時代の記憶をもとに書いています。あくまでも一個人の体験であり、また、記憶が曖昧な部分もありますので、業界全部に当てはまるとは考えずに話半分でお読み下さい。

EPISODE 003 ~半地下のお仕事

2in1のレースゲーム

とある遊戯施設での設置のときのお話です。

そこは売上規模も上々。数十台のゲーム機を置かせていただいていた、いわゆるお得意様です。

そのお店に新製品のレースゲームを設置することになりました。

むかしよく見た2シート1組になっているパターンの対戦型レースゲームです。

2in1のレースゲーム

もともと同じようなゲーム機は設置してあったのですが、古くなって人気もなくなってきたので新製品が出るタイミングで入れ替えです。

当然お得意様なので、問答無用のAランク。最優先で新製品投入です。

ところがこのお店、こと搬入に関しては一筋縄では行きません。形がいびつなのです。

そもそもが斜面に建てられたお店なので、整地してあるとはいえ薄っすらと傾斜があります。そして、正面入り口にはまるで宝塚のステージかというような半円形の大階段。その先も決して大きいとはいえない扉。

さらに、そのレースゲームの設置場所は「半地下」のゲームコーナーです。

さらにさらに、その半地下のゲームコーナーへの出入り口は、駐車場に面した入り口も、1階のメインの施設から階段で降りられる通路も、わずか半間ほどの狭さ。

今のレースゲームは1シートごとに筐体が別れているものがほとんどですが、当時のものは本当に2個イチです。分解するにしても、モニター部分とシートが分かれるくらい。フレームからモニターを外せば重量は軽くなりますが、物理的なサイズは変わりません。不可能です。

さあどうするか。

ここで前回の秘技が発動します。

「なんとかする」のです。

結果なんとかなるのです。

開いている場所を探せ

まず人間が出入りする通常の出入り口は使えません。大きさが足らないのです。

分解したシートだけなら通り抜けられますが、本体が通りません。

単純に横幅だけなら通るのですが、前後のスペースがなさすぎて展開できません。曲がることが出来ないのです。

とはいうものの半地下のゲームコーナーです。あとはコンクリートの壁だけ・・・。

いや、ありました。使えそうな場所がありました。

半地下につきもののあの場所、「採光窓」です。

半地下のゲームコーナー間取り

開口部の広さは十分です。加えて外側内側ともに障害物もなく、広いスペースが確保できる。もうここから入れるしか方法はありません。

そうと決まったら早速作業開始です。

搬入できそうだとはいえ、トリッキーな方法には変わりません。まずは考えられる不測の事態を潰していきます。

考えられる不測の事態とは、第1に機械が壊れてしまうこと。第2に誰かが怪我をすること。

怪我が1つ目じゃないのかい?という突っ込みがありそうですが、当時はこの序列です。いえ、ブラック企業というわけではありません。福利厚生も行き届いたとてもよい職場でしたよ。

前回にも書きましたが、まずは分解出来るところは分解して軽く小さくします。

今回のレースゲームの場合は、「看板」「シート」「本体」が大まかに分解できる部分です。新品で運ばれる場合はこれがバラバラの状態で納品されてきます。取扱説明書にもこの部分の組み立て・分解方法は記載されています。

この状態でもまだまだ本体部分はかなりの重量があります。そのほとんどは当時まだブラウン管だったモニター部分が占めています。25(26だったかな?)インチモニター2基ですから相当な重さです。

実はこのモニターも外してしまって本体を軽くするという方法もないわけではありません。条件によってはそれを行うケースもありました。ただ、今回はやりません。この日の人員は3名で、この重量でもなんとかなりそうだったので分解はここまでです。

何故か?当時の筐体はモニターを外す作業そのものがとても面倒だったのです。詳細は別のエピソードに譲りますが、取り外しや組付けそのものが面倒だったのに加え、モニターを外す際にモニター自身を壊してしまうリスクもあります。それらを天秤にかけた結果、この重さで頑張る!という結論になるのです。

さあ、いよいよ搬入です。

ここで登場するのが、搬入時には必ずと言っていいほど持参する道具、「毛布」「平台車」「コンパネ」です。

ゲーム機の搬入に必要な3つのツール

毛布はあのいわゆる毛布です。これは筐体を傷つけないようにするために筐体の外側に当てて使います。引越し業者とかも使う?のかな。

平台車は持ち手のない台車です。持ちての代わりにロープがくくりつけてあったりもします。当時、キャスターのついていないゲーム機も多かったですから、そういったゲームの場合はこの平台車(あるいは二輪台車)に乗っけて運びます。大きな筐体の場合は持ち手が邪魔になりますのでこのような平台車を使います。巨大なゲームの場合などは、四隅に平台車を噛ませて四輪車よろしく進みます。その場合、平台車が4台揃わないときなどは、普通の持ち手付き台車の持ち手を畳んだ上に筐体を載せてしまいます。もうむちゃくちゃです。

そしてコンパネ。コンパネというのはいわゆる合板で、コンクリートを流し込んだりするときに使うもので、畳と同じくらいの大きな板です。

このコンパネは毎回ではないですが、設置先に段差がある場合はかならず持っていきます。使い方は単純で、下に敷いてその上で機械を転がすのです。今回も、窓の外側の地面が多少凸凹していましたので、まずはそこにコンパネを敷きます。

平台車を地面に置いて、傷がつかないように毛布を敷きます。そこにゲーム機の本体部分を横倒しにします。ゲーム機の裏の部分が下、モニターのついている方が上です。窓の桟にも毛布をかけます。機械と窓の両方を守るためです。同時に、筐体を中に引き込む際に毛布があるとちょうどよい滑り具合になるのです。

採光窓の下にもゲーム機は所狭しと並んでいるので、それらを全部どかします。配線やら何やらこんがらがっておりますのでコレがまた面倒くさいのですが、やらないと機械を着地させる場所が確保できないのでどかします。

あとはもう、採光窓からこのゲーム機を流し込みます。流し込むという表現がピッタリ。上(外側)の1名は採光窓へじわじわとゲーム機を押し込んでいきます。下で待ち受ける人員(このときは2名)は、じわじわと中に入ってくるゲーム機を「地面と平行(ここが大事)」に中へ引き込みます。

何故、中側の床に向かって下に降ろさないのか?窓が小さいからです。高さがないからです。ですから、最初からデカイゲーム機を斜めに下ろすことが出来ません。一旦平行に引き込まなければなりません。そんなことが2人で出来るのか?出来るのかじゃない、やるのです。

幸運な点をあげるとすると、このレースゲーム、フレームは非常に軽く出来ています。特に外側の板は繊維合板(わかりますか?肉でいうと成型肉ですね)でとても軽く、中の基板やらペダルやらモニターやらを外してフレームだけにしたら1人で持ち上げられるくらい。

そして、そんな軽いフレームに乗っかっているモニターは筐体の上側にあります。結果、この筐体の重心はかなり上の方にあるのです。頭でっかちなのです。

採光窓から入れ込むときは、当然あとのことを考えて筐体の下側から入れていきますので、ギリギリ最後までは、一番重いモニター部分は外側の台車に支えられることとなるわけです。不幸中の幸いです。

ただフレームが軽い分、強度もそこそこ弱いので、気をつけて降ろさないと破損してしまいます。

2in1レースゲームを採光窓から搬入の図

そうして、筐体を傾けられそうなところまで中に入れられたら、外で押していた人は今度は中に急ぎます。ダッシュです。ダッシュしないと中の人が大変です。「はやく~はやく~!」とか叫んでいます。てか私が叫びます。大変です。

そして3人がかりでズリズリと筐体をゆっくりと着地させていきます。ここまで来てしまうともうかなり楽になっています。重いことは重いですが3人がかり。さらに上の部分は窓枠にかかっているので重さは分散されています。あとはスタミナと精神力の残量次第ですが、なんとか踏ん張ってゆっくりゆっくりと下ろします。ここで、うっかり「ガツン!」と下ろしてしまうと故障の原因になります。こういうどっかに衝撃を与えた場合は、割と高い確率でモニターが壊れます。色が出なくなったりします。基盤のハンダが割れてしまうのですね。だから丁寧に下ろします。

着地したらもう安心。

あとは組み立てて動作チェック。どけたゲーム機をもとに戻したら設置作業は終了です。

もう一つの難所

搬入はこのような手順で行います。

しかし、あれ?一つ忘れていませんか?

そうです。機械の入れ替えということは、外に出さなきゃいけない機械があるということです。

このときはほぼ同じ大きさ、同じ形状の古いタイプのレースゲーム。これを外に出さなければいけないのです。

今度は逆です。

先程は重力の順方向への作業ですが、今度は重力に逆らう作業です。きつそうです。

どうやってやったのか?

正直に言いましょう。覚えていません。

これくらいの作業は日常茶飯事だったので、いちいち覚えていません。

上で書いた搬入のことははっきりと記憶しているのですが、実はこれを書いているときに「あれ?搬出もあったはずだぞ?」と思い出したくらいです。

搬入経路はこの採光窓以外に物理的にありえないので、おそらくここから出したのでしょう。でも、その時の作業の記憶がない。

きつすぎて記憶をシャットアウトしたのでしょうか?そんなわけもないと思いますが。

ただ新製品の搬入と違って、古い、このあとどこで使用するかも決まっていない、売上も見込めない機械なので、多少雑に扱っても構わないので(※個人の意見です、ダメよホントは)そんなに苦労しなかったのかな?

あるいは搬出のときだけ上述のモニター外しをして本体を軽くしたのかもしれません。もう、モニター壊れてもいい位の感じで。

とにかく、嘘を書いてもダメなので、正直に忘れましたとしときます。思い出せない。

結局、トリッキーな方法の割には意外とスムーズにいけた記憶がありますね。このときは。

苦労して入れたゲームの人気が良かったりするとやったかいがあるのですが、このときはどうだったかな?何か可もなく不可もな下ったような記憶がありますね。

まあ、でもとりあえずはお店のオーナーさんが満足していれば良いのですよ。営業としてはね。