管理人が平成時代の若き時代の記憶をもとに書いています。あくまでも一個人の体験であり、また、記憶が曖昧な部分もありますので、業界全部に当てはまるとは考えずに話半分でお読み下さい。

EPISODE 010 ~雪と100円玉

雪まみれの100円玉

ずっと搬入や設置の話が続きましたが今回は別の話。

設置したゲーム機で営業した後、発生した売上を回収します。

直営店などの場合は売上を毎日回収していました。台数が多い店舗の場合は機械をエリアに分けてローテーションを組むなどして回収の負担を分散したりします。

シングルロケーションの場合は毎日の集金は行いません。

基本的にゲーム機のメンテナンスキーはお店に預けますが、金庫キーは渡さずにこちらで管理します。ですから、お店の人は金庫を開けることができません。これ、当時は深く考えたことはなかったですが、やはり間違いがないようにということでしょうか。お金が絡むことですからね。きちんとこちらでチェックできるようにしていたのだと思います。

でも当然毎日数多くのシングルロケーションを集金に回るなんてことは不可能なので、これもローテーションを組んで回ることになります。

当然売上の多い店舗は間隔が短くなります。それでも週に1回。それより売上が低くなってくると月に2回。月に1回。どんなに売上が少なくても月締めがありますので月末に1回は集金です。

これは他の業種も同じですよね。月末は集金業務でてんてこ舞いです。

これはある独特なシングルロケーションでの集金のお話です。

そのお店はとある観光地にありました。EPISODE004で紹介したペンションと同じ観光地です。

お店はレストランです。レストランといってもそんなに肩肘はった感じじゃないお店。

ファミリーレストランのようなメニューを出すカジュアルな感じのお店です。その店内にゲームコーナーがあり、そこにゲーム機を置かせてもらっていました。

そして店内のゲームコーナーとは別に、お店の外にお庭というか広場のような場所があり、そこには子供用の乗り物を数台、5台位だったか置いて営業していました。かなり広い場所だったので、置いてある機械もわりと大型のものです。

スーパーなどでよく見かける車やバスに乗り込むような定番のものから、小型のメリーゴーラウンドのようなものまで。これもまた具体的な機種名の記憶が定かではありませんが、なにしろ一番大きなものだと直径で3メートルほどはあったのは覚えています。うーん、歯がゆい記憶力。

ともあれこのお店。夏の行楽シーズンはとても成績優秀なお店でした。7月8月だと私の担当店舗の中でもかなり上位の売上を上げてくれるお店です。

ところがシーズンオフは一転、極端に売上は下がります。

秋はまだ紅葉がありますので、そこそこお客さんが来たりはするのですが、それでも売上はたいして期待できません。基本的に夏のシーズン以外は土日祝日しか営業もしていません。

これが冬になるともうダメ。売上はほとんど「0」に近い。そもそもほとんど営業していないのでそれも当たり前です。

こういった季節ロケーションの場合、他で売上が見込めるゲーム機の場合は、シーズンオフになるとゲーム機を他の稼げるお店へ移動させてしまうことがほとんどです。面倒は面倒なのですが、シーズンが来る度、終わる度、機械を設置したり取り下げたり、実際にそうしているお店もありました。

ただこのお店の、とりわけ屋外のゲーム機(乗り物)は1年中置きっぱなしです。何故なら他で使えないから。

さきほど言ったように大型の機械も多かったので、そもそもそれが置けるような他のお店があまりありません。新しくて人気のあるようなゲームであれば、無理してでも直営店に入れ込むのでしょうが、そこまでの機械でもありません。むしろ観光地だからこそ売上があるというゲームです。ホテルや旅館のゲームコーナーだと、普段やらないような古いゲームでもお金を投入してしまうという経験は誰しもあるでしょう。あれです。これを街中の普通のお店に持っていっても弱いのです。むしろ邪魔になるのです。その場所に他のゲーム機を置いたほうが絶対にいい。

そんなわけでこのお店は営業していようがいまいが、1年中同じゲーム機が置いてありました。

そんなお店なので冬の間は当然集金は月末の1回のみです。まあやらなくても良いくらいなのですが、先程行ったように月締めの件もありますし、たまに金庫をチェックしてお金を抜いておかないと、屋外なので防犯上の問題もあります。

それは真冬のとある寒い日の出来事でした。

そのお店の1ヶ月ぶりの集金です。この観光地には他にも数件のシングルロケーションがあるので、スケジュールを合わせてまとめて集金に出かけます。

まあ、ペンションとかあるくらいです。どんなところか想像できるでしょう。山の上です。標高1000メートル超えの山の上です。

お店に向かう道中、すでに嫌な予感はしていました。

営業所を出るときは晴れていたのです。ところが山道に差し掛かったあたりから薄曇りに。やがて白いものがパラパラと舞い始めます。

この地域はもちろん雪もつもりますが一応観光地です。生活に問題ない程度にはインフラは機能しています。営業車もしっかりスタッドレスタイヤに履き替えています。何も問題はありません。

上に進むにつれ、だんだんと路肩の雪も目につくようになってきました。目抜き通りにつく頃にはすっかりと雪景色。除雪されたアスファルトの上以外ほとんど白。

まいったなあと思いながらレストランの庭に出ると、そこには予想された光景が広がっています。

白い小山が5つ。

ゲーム機の姿は見当たりません。小山が5つ。

屋外でゲーム機を営業する場合、その日の営業が終わると大きなシートをかけます。自動車にかけるのと同じような、スッポリとかぶせるシートです。当然このお店のゲーム機にもシートをかけてあるのですが、そのシートを覆い隠すほどの雪がこんもりと積もっています。機械の地肌も見えていない。

山の天気恐るべし。

雪に埋もれたゲーム達

集金業務さえなければ、このまま踵を返して帰路につけば良い話。

シートを掛けてあるので防水は十分。多分壊れてはいないでしょう。いや、壊れていたとて最悪春まで放っておけば良い。

でもこれから集金しなければなりません。雪をかき分けて金庫を掘り出さなければなりません。

何がどのゲームだったっけ?たまにしか来ないから場所もうろ覚えです。場所がうろ覚えということは、向きもうろ覚え。向きなんかどうでもイイだろうと思うでしょう。とんでもない。

機械の向きがわからなければ、金庫の位置が特定できないのです。金庫の位置が特定できなければ、ピンポイントで雪をかき分けることが出来ないのです。外れたらそこら中掘り返さないといけない。

手始めに一番大きな山から取り掛かることにしました。

回転木馬系です。上モノはたしか馬ではなくて何かのキャラクターだったような気がしますが、形状はそれ。

さあ、どこだ、どっちだ。

こんなことは予想していなかったので、スコップなんて持ってるわけがありません。手でかき分けます。一応車に軍手はあったのではめてます。防水じゃないですが多少冷たさが和らぎます。

向きこそ覚えていないものの、一番下、土台部分に金庫があったのは覚えています。見当をつけて一箇所の雪をどける。

・・・ハズレ。

目の前はただの鉄板。開かない。ここじゃない。冷たい。手痛い。

一応、一箇所雪をどけたついでにシートをめくり上げ顔を突っ込んで中を確認します。金庫の位置を探すために。しかし円形の土台の側面に金庫扉がついているので、上から見てもわかりません。

潜り込みます。かき分けた雪とシートのスキマから匍匐前進で潜り込んで土台の側面をグルっとチェック。

反対側でした。

やり直しです。今度は反対側を掘ります。軍手はすでにビッチャビチャです。

ズボンにも染みてきました。染みてきたのは外なのか?内側なのか?両方か?寒い。冷たい。

ようやく目の前に現れた金庫をかじかみきった手でなんとか開けてボックスを引き出します。

いくら入っていたと思います?ねえ。

忘れもしない。

置いていたゲームの名前も機械の向きも覚えちゃいないですが、その時の金額だけははっきりと覚えていますよ。

300円なり。

いや、でも考えればこの環境でよく300円も入ってたな。動かしてた日もあったということですね。来たかいはあった、と自分に言い聞かせる。

結局その後、すべてのゲームの雪をかき分けながら集金を済ませました。が、合計は1000円もいかず。

こんな求人出したら労基から指導されるレベル。

最初の300円はまだ多かったほうだったんですね。そりゃ一番目立つゲーム機だものね。あとは100円とか200円とか0とか。

労働後の徒労感をコレほど感じたことはなかったですよ。

帰り際、コンビニで肉まんかピザまん買ったっけか。それすらも曖昧な記憶。

後にも先にも雪をかき分けてゲームの集金をしたのはこれ1回だけですが、今となってはいい思い出、なのか?