管理人が平成時代の若き時代の記憶をもとに書いています。あくまでも一個人の体験であり、また、記憶が曖昧な部分もありますので、業界全部に当てはまるとは考えずに話半分でお読み下さい。

EPISODE 009 ~燃える(燃やす?)ゲーム再び

ガンコントローラー赤と青

なにやら3部作みたいになりましたが続きです。完結編です。

あのスターブレード騒動から年月が経ちました。

もはや稼働中のスターブレードなどほとんど見なくなった頃、私もそこそこの中堅になり、外回りでシングルロケーションを回る日々を送っておりました。

その「事件」の日もいつものようにいつものお仕事。

ある店舗からある店舗へゲーム機を移動する作業です。

運ぶ機械はアップライト型のガンシューティングゲーム。

アップライト型?

先の2つのお話を読んでピンときた優秀な探偵さんはまだネタバレご遠慮下さい。ゆっくりいきます。

アップライト筐体の移動作業などなにも難しい作業ではありません。移動元のお店も移動先も特に工夫する必要のない構造です。ゴロゴロと転がしてトラックに積み、運んで下ろして設置するだけです。

他にもいくつか小型のゲーム機もありましたが、それでも大したことではありません。

1人でも何てこともないのですが、確かこのときもバイト君と2人で出かけたと記憶しています。

順調に積み込んで次の設置先に向かいます。

トラックを走らせていると渋滞に差し掛かりました。珍しいことでもなく、時間帯によっては混む道です。渋滞の中をノロノロと、進んでは止まり進んでは止まり。

そのうち妙なことが起こり始めました。やけに眩しいのです。

ピーカンでした。雲ひとつない空。快晴。ピクニック日和。

ただそれにしても眩しい。さっきから運転していてちょくちょく眩しい。日は昇りきっているので直射日光が目に入っているわけでもなさそうだ。

なんだろうと思いながら運転していると、あることに気が付きました。

自分のトラックの前を走っている乗用車の後部窓がギンギラギンに眩しいのです。さりげなく眩しいのです。

「なんだあれ?」

まだこの時点では原因に気がついていません。でも、これは明らかになにか反射しているような光だ。自分で発光している感じではない。何故なら明るすぎるのです。これが電球かなんかなら相当な出力。

そしてまた少しずつ車を進めていると、またあることに気が付きます。

その「眩しい点」は私の乗っているトラックと、どうもシンクロしているようです。渋滞中、前の車が進んで距離が少し開くと点は下の方へ、トラックが間を詰めると点は上へ。

すべてを察してしまいました。

その日に積んでいたゲーム機はセガ製の「バーチャコップ」です。

実はこのバーチャコップ、スターブレードと同じく凹面鏡を使っているのです。

それは無限遠というよりは画面を大きく見せるためだと思われます。プレイ画面は実際のモニターサイズよりも確かに大きく見えました。臨場感があります。

でも今はそんなことはどうでも良い。臨場感はいらない。

その凹面鏡が太陽光を集光して、前方の車にレーザービームを放っているのです。

光は後部窓に当たっていますが、当然その先には後部座席があります。まずい。このままでは前の車の後部座席を燃やしてしまう。

そうはいっても渋滞中の狭い道。我々がトラックを止めて荷台で作業なんてしていたら大顰蹙です。

とりあえず次に進んだ時にちょっと左にずれます。今度は右。進むたびに微妙に蛇行して焦点をずらします。発火温度に達する前に位置をずらします。渋滞が動かないときも、じりじりと少し進んだり。

後ろの車はさぞ鬱陶しかったでしょう。私だって前の車それもトラックがそんな動きしていたら嫌だ。

でもそうしないと前の車が燃えてしまう。とにかく同じ場所に光を集めないようにしなければ。

なんで筐体にシートを被せなかったんだろうかと後悔が襲う。バーチャコップが凹面鏡を使っているのは知っていたのに。歳月は恐ろしいですね。すっかり忘れていましたよ。スターブレードの呪いが今ここに蘇る。

凹面鏡レーザーを放つアップライト筐体と渋滞中のトラック

ただ、不幸中の幸いは筐体が前を向いていたことでしょうか。これがもし後ろを向いていたら後続車が被害にあっています。ドライバーにレーザービームです。しかもそれに我々は気が付かない。

通常、筐体はフラットな背面を運転席側の面につけて固定することが多いのですが、このときは他の機械を積んだ関係でバーチャコップが前を向いていたのがラッキー(なのか?)でした。

実際のところ数分の出来事ではあったのでしょう。気持ち的には永遠とも思われた時間はやがて渋滞の解消とともに終わりを告げます。

あわてて道路沿いのコンビニに停車して荷台を確認すると、バーチャコップは相変わらずレーザービームを発射し続けています。

この日はピーカン。雨のときしか使わないシートなんぞ積んでもいなかったので、急遽養生用に積んでおいたダンボールを画面にあてがってガムテープで塞ぎました。

ああ、最初からこうすればよかった。

前の車の人は気づいていたのだろうか。気づいてたら怖かったろうな。でもきっと気づいてないか。

その後は何事もなくお店に到着。バーチャコップは太陽の当たらない薄暗い小さなゲーセンで稼働を始めるのでした。